Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

 
  歌声のしずく

 


     終章



小さな小さな島の、
ささやかな、されど神聖なお祭りも、
いよいよのクライマックスを迎える刻限。
すっかりと陽も落ちた夏の宵は、
軽やかな夜風にくすぐられつつ、
何とはなくワクワクするのが くせもので。

 「…………あ。」

降るような星空へ、不意に風鳴りの音がして、
次の瞬間、ぱぱぱーんっという炸裂音と共に、
浅藍の夜空に花火の華が咲き始める。

 「え? あんな明るくしてもいいの?」

だって、これから始まるのは光と歌声の神事なのに。
あんなに眩しい花火を打ち上げの、
ぱぱぱーんと賑やかしのしてもいいものなの?と。
意外な演出が始まったことへ、
あまり馴染みのなさげな顔触れだろう、
ちょっとざわざわしているお客人もいるようだったが、

 「なに、あれは“今から始まるぞ”っていう合図だから。」

町やそこから連なる小高いお山は元より、
夜の漆黒を映した海の上へも、
華やかな光の影を撒き散らかして。
連綿と上げられる花火は、
自然と人々の意識や視線を空や高みへと誘い上げる。
海上に出た船から見物をと構えた人々もまた、
島の夜空を彩る光の華々へ、おおおと歓声を上げており。
夏の祭りの締めくくりに向けて、
まだまだ盛り上がるぜという、意気軒高な気配が満々と感じられ。
そんな中には、
別な感慨からそれを眺めやるこちらのご一行の目もあって。

 「……あのタリオーヌってのはサ、
  元いた海賊団の船長の、
  侠気(おとこぎ)ってのかな?、
  義理堅さってのか情にこだわるってのか、
  そういう、合理的じゃないところが気に入らなかったらしくてね。」

その船長とは俺も顔なじみでな。
別段、がっちがちに“正々堂々”なんてお堅いことを言ってたワケでもなし。
昨日“それは狡いぜ”って怒かった同じズルを、
うっかり自分もやっちまうよな、
そんなゆるくてお気楽な。
なのに、ずんと遠くまで広く名を上げてんだ、どんだけ剛毅かっていう、
そういう船長が率いる、気のいい一味なんだがなと。
次々打ち上がる花火の光の色に、その横顔を次々と染め変えて、
島の裏側に係留させてあったのを出港させつつある、
サウザンドサニー号の広々とした甲板の上、
ゆったりとした口調で語るのは、
実はアルデンテという名前の、しかも彼もまた海賊だというアンダンテさんで。
日頃は教会で聖歌隊の指導やお世話をしている、町長さんの親戚…なんてな肩書を、
誰も疑ってなかったのも無理はない、
温厚そうな笑顔の自然な、いかにも気のいいおじさんであり。
定職に就いていない身、少々お気楽トンボ風な気の若さのせいでか、
やだな お兄さんと呼んでおくれよという決まり文句が、
さほど白々しく響かない風貌じゃああるけれど。
その正体が露見した折、感慨深げに苦笑したお顔は、
さすがに…色々と思うところというのが錯綜していたのだろ、
なかなかに味のある表情というの、浮かべて見せた彼でもあって。

  この群島のどこかに根城を置き、
  海軍からさえ一目置かれていると噂の、
  グリングル海賊団の、情報収集と管理担当の哨戒長。

グランドラインの前半航路を陰から支配していたも同然の、
どんな悪事もこなす犯罪結社“バロックワークス”で、
実は七武海の一人だった社長、クロコダイルの秘書を務めていたロビンが、
動向をマークしておくべき有力海賊として、
名前とお顔を記憶していたほどの格の人物でもあり。
そんな素性を隠し切っての、この島へと滞在を始めたのは、
奇しくも、
あのタリオーヌがひょこりと現れ、
此処へ居着き始めたのと時期が同じだというのだから、

 「どんだけ気配を誤魔化すのが上手いんだか、だよな。」

いくら町長から“身内だ”なんて紹介された身だといっても、
長年の航海で身につけた隙のなさとか、人性の厚みとか、
そうそう隠し切れるものでもあるまいに。
実際に顔を合わせて接していたルフィやゾロにも、
単なる島(ここ)の住人としか思えなかった凡庸さだったし、

 「警戒してたんなら尚のこと、
  こいつらの姿を見るより以前の話として、
  この船が近づいてたのへだって気づいてたんだろうから。」

他でもない海賊が入り込んでんぞっていう格好で、
何かしら気を張っててもいいとこだろうにと。
ウソップが怪訝そうに眉を寄せたのは、
ロビンが言うほどの大物ってホントかなぁという方向での疑ぐりもあるのだろう。
だが、

 「そこんところは、
  そうと思わせない演技もまた キャリアあっての技だから、
  特に奇妙なことじゃねぇさね。」

ニコ・ロビン嬢とキャリアは同じくらいの おとな組。
海列車の始発でもある賑やかな町にいながら、
事情があってのこととはいえ、
主には裏町で狼藉を働いてたサイドの人間だった名残りか。
よくも悪くも、
人に紛れる術や人をたばかる術にも馴染みの深かったフランキーが、
そんな言いようでのフォローを加えたものの、

 「ただの見張りなら、長のつく幹部は置くまいに。」

そんな彼にも彼なりの疑問があるようで。
ウソップがバネ仕掛けの何かしら、
うんうんと力づくにて木箱へ押し込んでいたのへと。
横合いから大きな手を延べての、上へかざして数秒ほど。
パパパッと箱の四方を撫でただけみたいに見えた所作の、どこで何をしたものか。
雑な作りだった箱が、きれいな飾り彫りに縁取られた化粧箱へ変身しており。
しかもしかも、何だなんだと覗き込んだルフィやチョッパーが上蓋を外せば、
びょ〜〜んんと飛び出したのは、
箱の外径の3倍はある、丸ぁるいピエロのお顔だったりし。
片手間にそんないい仕事がこなせる彼にしてみれば、

  根城にしている海域だ、
  タリオーヌなんてな ややこしいネズミが入り込んだことへ、
  素早く手を打ってのこととか?

単なる配下じゃあない、
コトを起こすぞとなると
作戦の下地となろう情報を集めて回り、
参謀やキャプテンの耳目の代わりをするような。
そんな重要な役どころの、しかも責任者を置くなんてのは、
半端な配置じゃないだろにと。
ロビンは余裕の笑顔で口にしたものの、
掴みどころのない傾向(ふし)が相変わらず強い彼女と違い、
根は真面目ならしい船大工さんが、
こちらはそうは行かないぞよと言いつのれば。

 「半分は正解。
  俺たちの一味とも気の合う船長から、
  勝手な理由でケンカ別れも同然という離反をした奴だ。
  しかも他でもないこの島へ飛び込んだんだもの、
  こっちも神経を尖らせるってもんでね。」

彼もまた、とりあえずはと飛び込んだクチ、
ここへの滞在中に少しずつ、
相手の真意を探った格好になったという順番だったようで、

 「ここへもぐり込んだのが、
  この祭りの日だったことへの計画とかはなかったらしい。
  いや、むしろ何でこの日にって、後悔しきりとなってたはずだよ。」

よその海賊団の幹部のお兄さんが くつくつ笑ったところで、
花火の勢いが少しずつ収まって、
それへと気づいたチョッパーが、
芝生の敷かれた甲板をとてとてと横切り、船端へ飛びつく。

 「何か始まるぞっ、ほらっ。」
 「お。」
 「ホント、何だか空気が変わったみたい。」

気象に根差す気配まで浚えるナミが気づいたほどのこと。
人々のざわめきの波長のみならず、
海を渡る潮風や、大気を支配する温気までもが、
何かへ耳をそばだててでもいるかのように、
閑けさを掻き集め始めており。
それだけは止まりようのない潮騒までもが、
心なしかその響きをひそめたような、そんな間合いが訪れて…それから。

  ―― 夜陰の垂れた山間の半ばに、
    ぽつりと灯った小さな光が1つあって。

いくら小さな島だと言っても、
山に港に、野辺では耕作もやっつけるという4つか5つの集落が、
見渡しただけでは収まりきらぬ規模の町並みや暮らしをつなぎ合い。
此処だけででも日々の生活が成り立っているだけの世間世界じゃああって。
それが…見上げた夜陰の中、
もはや山という固まりになった漆黒でしかないはずの真ん中ほどへ、
きらちかと光って瞬くその光は、
さながら、大海原で迷子にならぬようにと灯された、
灯台の明かりか篝火のようでもあり。

 「…この祭りの最後の、あの奉納の神事が、
  海の上からでも見物できるほどってなったのも、
  あのちゃんが歌姫に選ばれた年からだそうでね。」

今見えているあの灯火こそ、
彼女の歌声が灯した明かりと言いたいのだろう。
アンダンテは彼もまたその光を見やりながら そうと言い、

 「俺があのタリオーヌを追っかけるようにこの島へ来たのは、
  彼女が歌姫となった二年目の祭りの後なんだが、
  まさかに、すべてがあの声のせいだとは思わなんだねぇ。」

海賊としてそこそこの恐持て、
そんな格の大人たちを振り回していようとは気づきもしないで。
せいぜい小さな港町の顔役のおじさんへ、
この悪党なんて面と向かって言うことで気を張ってるお嬢さん。
そういう構図であると気がついたのは、
あの神殿にあって毎年宝珠を捧げられている、大岩戸の井戸とやらに、
やたらと関心を示してたタリオーヌだったからなのが穿っている。

  そう、
  雄牛ほどもあろうかという大きな重い岩が
  どうしてだか歌声1つでスルスルと開く不思議な仕掛けこそ、
  あの胡散臭い刀使いの海賊を、此処に引き留めた元凶。

  「…あの大岩が?」

まだちょっと事情の見えないらしいサンジやナミが、
おややぁと小首を傾げたものの。
その辺りを…こちらさんは
仕掛けをではあれ、たった2日で紐解いたらしいロビンの方へ、
しょっぱそうな苦笑を振り向けたアンダンテ。

 「あんたも気がついたんだろう?
  年に一度しか開かない岩戸へ執着する理由。」

そうと問いかければ、
船端の縁へ背中を預け、肩越しに島を見やっていた考古学者さんが、
ええと、目元を細めて微笑いつつ頷いて見せて、

 「あの人、井戸の中へ何か落としでもしたんじゃないかって。」

  「あ……………。」×@

いともあっけらかんと提示された一言は、だが、
言われてみれば、一番にごもっともな理由じゃなかろうか。

 「そっかぁ、そうだったのかぁ。」
 「成程、年に一回しか開かないんじゃあ、次を待つしかないか。」
 「さぞかし歯軋りもんだったろうなぁ。」
 「でもさ、こうまで衆目の集まってる中なのよ?」
 「つか、そもそも、そういうシチュエーションの中へ、
  どうやって何かを落っことせるんだ?」

月の巡りとあの儀式と、
宝珠と歌姫と…っていうお膳立てで、やっと開くらしい大きな岩の蓋。

 「ことの始まりからして、奴には忌々しかったことだろうが、
  あのちゃんが歌姫になった年から、
  群を抜いての格段に、途轍もなく光るようになったんだよね、宝珠が。」

それまでは、そう、
ナミやロビンの声でも仄かに光っていた程度の明るさしか発揮せず、
それだって十分不思議なことよと認められ、それで選別されてたそうで。
それが、あの少女が放った声では、
こうまで遠い海の上からだって判るほどの光を放つよになった。

 「まあもっとも、今見えてるあの光は、
  歌声で開いた井戸に毎年放られて来た歴代の宝珠も
  一斉に反応して光っているからではあるんだが。」

神殿回りなんて近くで観ている人には、
真昼のような明るさになってるはずだと。
それもまた そりゃあ幻想的な様相なので、
一度観た人はまた来てみたいって気持ちになる、
海の神様からの御加護を思わす光景らしいんだよねと、
ちょっぴり誇らしく続けたアンダンテ氏だったが、

 「奴が何かを落としたというのもね、
  ちゃんの朗々とした声で、宝珠がそりゃあ目映く光り、
  それへ目を射られた格好で
  手元からお宝を取り落としたらしいってんだから笑ってしまう。」

そこで急に笑いが込み上げて来たのは、
真相がそんな顛末だったのへ、
他でもない自分も唖然としたのを思い起こしたせいも多少はあるのだろう。

 「光のせいで、取り落とした?」
 「うん。
  何でも、昔の大物海賊が遺した秘宝の有処を示す、
  トレジャーマークが仕込まれた魔鏡だか水晶玉だか、
  そういう光りものを据えた、ベルトか鉢当てだったらしいんだが。」

そもそもはその配下から離脱した船長さんの持ち物だったとかで、
言わば強奪したその勢いで飛び出したようなもの。
自分の手下を何人か供連れにして、
丁度進路の先にあったこの小島へ逃げ込んで、
お祭り騒ぎなのをいいことに山の中へと身を潜めていたらしくって。

 「ところが、祭りのクライマックスが
  まさか山のほうで行われるなんて知りもしなかった彼らは焦った。」

 「だろうねぇ。」

 「こりゃヤバイと、荒れたまんまの木立の陰だの木の上だの、
  何とか頑張って隠れたその中で、
  歌姫さんが歌い始めると あら不思議。」

 「大きな岩が誰も触れないのに動き出し、
  しかも井戸の底からも、
  途轍もない光があふれ出すじゃあないですか。」

 「見つかってはやばいという緊張感もふっと薄れたものか、
  こうまで神憑りな光景に飲まれたか。
  それをこそ大事と握りしめてたはずのお宝が、
  スルリと手を離れて井戸へ真っ逆さまに落ちてったらしく。」

 「つか、どこに隠れてて落としたんだよ、それ。」

そこまで説明されたなら、その先ももはや読めたとばかり。
アンダンテの語り口調を途中から横取りし、
祭りの様子や、人の集まりにやややと焦るタリオーヌの様子を
ウソップやサンジ、しまいにゃナミにフランキーまで参加して、
即興の手振り身振りで演じて見せたほどであり。

 人のことは言えないほど、余程に呑気だったんかな。

 いくらそういう祭りだと知らなかったとはいえ、
 人の流れを読んだら判るだろうに。

 しかも、選りにも選って祭りの中心部の真上だと?

 で、どうしても諦め切れなくて、
 井戸のあるこの島に居着くと、
 大岩戸が開く機会を待ちの、仕掛けを調べのしてたってか?

あんまりバカ健気で俺ぁ泣けてくるぜと、
フランキーが大きな腕の腹で目元をこすって見せる中、

 「でも、それじゃあ あなたが2年も居続けたのは何故?」

神殿にて煌く神々しいまでの光は、
もはや夜空の恒星を思わすほどの強さで瞬いていて。
タリオーヌの企みへの種明かし、
クルーたちの寸劇もどきにも背中を向けたままなルフィのみが、
真摯なお顔でそれをじいっと見やっておいで。
そんなところもまた、見た目の幼さに相応(そぐ)うほど素直で無垢で。
とてもじゃないが、
超新星と騒がれている世代、
億越えバウンティ揃いのニューフェイスの一角を担う、
話題の船長さんとは思えないねぇとの苦笑を誘われつつ、

 「ただの見張り、じゃあ納得は行かないか?」

ナミからの問いかけへしらっと応じたアンダンテは、
当然 容認されはしなかろと判ってもいたようで。
むむうと目元を眇める航海士さんの勇ましさへ、

 「あの用心棒もどきが何かしないかを見張ってたってのは本当だ。」

それこそがアルデンテとかいう海賊の顔か、
やや表情を引き締めると、

 「冗談抜きにそれがグリングル船長からの最優先任務だったし、
  そのとき限りの思いつきや、無茶振りだとも思わなかったね。」

そうと付け足した彼でもあって。

 「あいつが目をつけたトレジャーマークを、
  先に取り戻して本来の持ち主に返したかったとか?」

義理だの情だのに堅いお人だというからには、
そんな船長と気の合うグリングルとやらもにたような気質なのかも知れぬ。
友達を困らせる無体をした部下が許せぬと、
彼に替わってのお仕置き代わり、
騒動の元凶でもあるトレジャーマークを取り戻すことが、
同時にタリオーヌへの仕置きにもつながるだろうと。
その動向を見張っていたというところか?と、
チョッパーが何とか推測したものの、

 「そこまでのお節介は焼かないさ。」

幼いなりに考えたねぇという、微笑ましいものを見るよなお顔になって、
だがだが、ううんとかぶりを振ったアンダンテ。
苦笑を滲ませたままのお顔を、島のほうへと向け直し、

 「確かに、奴の執着はそのトレジャーマークだったからね。
  どうにも手が出せない状況なのが罰にもなってて、
  そこへはザマを見ろと思ってた。」

  でもね、じゃあって破れかぶれになられて、
  井戸を神殿を占拠するとか、ぶっ壊すなんてな暴れようをされちゃあ一大事。

 「俺に課せられてた“見張り”っていうのは、
  そうならないようにというのが最優先、
  それ意外のあれこれには多少は目をつむってろって指示だった。」

 「???」
 「えええ〜〜〜?」

そこまで掴んでいたのなら、
いっそ…それこそ力技を繰り出してもよかったのでは?
なのに、島の平和を騒がしちゃあ何にもならぬと、
そっちが優先されていた彼の任務って何?と。
身柄を拘束されてもいるのだ、
もはや策謀も何もあったもんじゃあないタリオーヌとやらのことは、
とうに置いといて扱いになってるのはいいとして。
ますますのこと、
その素性というか、この島に居続けをしていた理由に
謎ばかり濃くなってくアンダンテなのへ。
好奇心が黙っておらぬか、
ナミやサンジといった自称“慎重派”までもが身を乗り出していたけれど。

 「グリングルには、かつて芸術の島にて熱烈な恋をした末に
  略奪まがいで連れ去った姫君という恋人、いやさ“妻”がいたそうね。」


   ……………………お?vvv


何せ、そんな核心をついていたのが、
ロビンさんという学者馬鹿、
もとえ、艶っぽい懸想話や情話にあんまりテンションの上がらない、
至って淡白なお人なもんで。
声音が随分と単調なそれだったため、
皆の耳へと入った瞬間は、
『昔むかし あるところに、
 それは仲のいいおじいさんとおばあさんが暮らしておりました』
レベルの文言でしかなかったそれが。
だがだが胸へと届いたころには、意味もしっかりと咀嚼されており、

 「……まさかそれって、ほんの10数年前の話だとか?」
 「あの子の並外れたレベルの歌声って、もしかして。」
 「お姫様じゃあ海の生活には馴染めなかったのね。」
 「いや、亡くなったってのは早計でしょう。
  お姫様は泣く泣く母国へ返したが、娘だけは預かると。」
 「結構有名で、実力も海軍公認の海賊団でありながら、
  この群島が根城なんでと半ば公言までして居座ってるってのは、実は。」
 「あらいやだ、どうしましょう。
  新曲へのインスピレーションがむくむくと♪」

そういう浮いた話にはノリのいいクチが結構いたことが判明しもした、
ロマンチックな連想のあれこれが、
実際、当たらずしも遠からじなことのか。
特に釈明を足すこともないまま、
再び島の神殿辺りを眺めやった哨戒長殿だったのへ、

 「だから、
  こうまで傍で見守れる立場になったのを幸い、
  歌姫候補からそう簡単に降りちゃダメだって方へ、
  あの子を上手に誘導してやがったな、あんた。」

甲板で取り交わされていた種明かしの一部始終、
まるで関心ありませんという風情で、
得物である三本の太刀を外し、懐ろへと掻い込んで。
船端へ腰を下ろしたそのまんま、
島やそれへと見入る船長さんにだけ関心を向けてた風だった剣豪が、
だが、ぼそりとそんな一言をつぶやいた辺り、
知らぬ顔の陰で、話の肝だけは聞いてたゾロだったようであり。
おやと意外そうに目を見張り、だがだが、
そういやこの彼は、最初に自分たちと直に接したクチでもあったんだっけねと、
そこを思い出しての苦笑を浮かべたアンダンテ氏、

 「そういう話もしてたっけね。」

ほわりと吐き出すように呟いて、

 「無理強いになるのかなと思わなくもなかったけれど。
  あの歌声はどうにも捨て難かったし、
  それより何より、
  本人がどうしてもいやなら“迷い”はすまいと思ってね。」

彼にとっても
大好きな船長とその麗しき連れ合いだった姫の落とし子は、
そりゃあ愛しい対象であるらしく。
時々はらはらさせる気の強さとは裏腹、
繊細そうに迷いを見せるのへ、
見守る彼だとて多少なりとも動揺はしたようであり。
本当の親御さんならこんな気の弱い迷いようはしないかなと、
たははと微笑った彼だったのへ、

 「どうでもいいよな よその子へ、そこまでの気遣いはしねぇだろうよ。」

赤いシャツ着た小さな背中が、
そちらさんも話は聞こえていたものか、
そんなお声を差し挟んで来て。
おややと、アンダンテのみならず、ゾロまでもが首を伸ばして見やった先で、

 「はおっさんのこと大好きなんだと思うぞ?
  何だかんだ言っても、一緒にいるときは いつも笑ってたしな。」

説教されてもそれって、嫌いな奴には出来ねぇ顔だしと付け足してから、

 「結局、何を選ぶかは本人の決めることなんだしよ。」

自分が口にした一言をさも明言だったと言いたいか、
うんうんと やけにくっきり頷いて。

 「やりたくてやってることでも、キツイ時はキツイ。
  でもよ、無理からやらされてることがキツイとしんどいのに比べたら、
  よっぽどのこと、こんちくしょうって弾みもついて、
  成功したときの“楽しい”はデカイと思うけどな、俺は。」

そっちは彼にはあんまり大した言いようではないものか、
にししとにっぱり笑って見せて。
その横顔を縁取って、再び上がり始めた花火の明るさが、
小さな島での年に一度のお祭りの、
今年の仕儀の終わりを告げてもいたのだった。





       ◇◇◇



今夜の儀式で、最も磁性の強い宝珠は、
神殿の井戸へと投げ入れられてしまったワケで。

 『何だったらその音叉で、
  聖なる泉の底に沈んでる石の中から一番光るのを捜し出して、
  次の満月の晩にこっそりと、大岩戸を開くって手もあるけれど。』

どうせという言い方は無責任かも知れないけれど、
恐らくアタシたちは、
この島へは相当あとにならなきゃ再びは来られないだろうから。
この事実を正確に知っているあなたに渡すのが妥当だと思うし、
その処理のほうも、アタシらが口出しするのはおかしいと思うのでと。
例の小島からやや離れた辺り、此処でいいよと言われた岩陰へ船を留め、
そこへと降り立ったアンダンテへ、
これをとナミが放ってよこしたのがあの四ツ又の音叉。
星影の戻ったとはいえ、まだ暗かった手元だろうに、
危なげなく受け取ったお兄さんへ、
他の面々と一緒くたに船端へ集まったまま、
結構な高さのある喫水下の相手をのぞき込みつつ、
そんな助言をしたナミだったのへ、

 『それはありがたい話だな。』

にこりと笑い、音叉を握った手を見やった彼だったが、

 『でもまあ、タリオーヌはお縄になった訳だし、
  よほどに誰も信じてなかったか、
  外へと話を漏らしてもなかったようで。』

蓋を開けたら何も入ってない方がいいのか、
諦めの悪いのが“きっと有るはずだ”と掘り返しかねぬから、
ブツは入れといたままの方がいいものか。

 『そこんところはウチの船長と相談するよ。』

そこは素の顔か、朗らかに微笑って手を振った彼に見送られ、
他にも周辺の島々のお宿へと戻る船の多い中へ紛れ込み、
人出の多かったにぎやかなところから、
まんまと脱出に成功した麦ワラの一味だったのだけれども。

 「知らない方がいいことってのは、一体誰が決めるんだろうな。」

そういやウチにも、
当の本人は知ってたらしいが
海賊王の息子の弟や、革命軍の惣領の息子や、
四皇から宝物を預かってる坊主がいるもんなぁと。
いっとき“プリンス”を名乗ってた御仁が、
紙巻きをくゆらせつつしみじみと呟けば。

 「そりゃあお前、
  知ってる奴にしか決められねぇこったろうが。」

愚連隊の親分のような素振りを構えつつ、
実は落ちこぼれたちの更生に手を貸していた、
頼もしき兄貴が至極当然なお返事を返し、

 「でもさ、知らないまま放っておくってのは、
  知ってる奴が隠しごとしてるってことになるんだよな。」

それって罪悪感も沸くもんじゃないのかなぁと、
目元を曇らせたトナカイの船医さんの言いようへは、

 「ま、結局、いいか悪いかは、
  聞かされたり知らされた本人が
  怒るか嘆くか驚くかでしか計りようもねぇんだろうよ。」

もっともらしさでは並ぶだろう言いようを付け足したのが、
実は6000人もの部下を持つらしい狙撃の王様。
かように、こちらの皆様、色んな過去やお顔を持っておいでの、
しかも今ばりばりに“海賊”だってのに。


  だってのに、
  一少女の平穏な幸せが
  驚きの真実によって脅かされないかを案じてしまう辺り。
  相も変わらず、人がいいやら お暢気なやら。
  間違いなく、いろんな定規が常人とは違うのだろうが、
  それでもあのね?
  幸せとか楽しいとかにこそ、
  嬉しいを人一倍感じるところは
  誰よりも当たり前な、
  ある意味“変わり者な海賊”な彼らだからね。
  小さな島での思い出も、
  そりゃあ楽しくて嬉しかったぞと、
  温かく思い出せること請け合いの、彼らだったのでありました。









   〜Fine〜  2012.06.12.〜07.25.


   *何だか最初の思惑とズレてしまって、
    何よりもどんどん尺が伸びちゃってすいません。
    ドリー夢にした意味も薄かったですかね。
    天真爛漫なキャラが好きなもんですいません。

   *アニメ派のもーりんとしては、
    新世界篇を細かくいじるのはまだ少々無理なんですよね。
    現在の本誌で展開中の、
    外科医海賊さんとのなかなか面白いタッグとか、
    レギューラー陣営の身に起きた
    “シャンブル(だったっけ?)”状態の話とかは勿論のこと、
    2年後の皆さんの新しい技もよくよく知らない身なので、
    今回のこのお話、
    位置としては微妙な島、時期も微妙な頃合いだということで
    曖昧なまんまで通させていただきます、すみません。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

レスもこちら**


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